A:黒翼の魔竜 アガトス
広場の名前にもなってる、聖バルロアイアンって人はね、200年くらい前に実在した「蒼の竜騎士」なの。
凄腕の竜騎士だった聖バルロアイアンが、唯一、激戦の末に取り逃してしまった竜がいる……。それが、黒翼の魔竜と恐れられる「アガトス」よ。[
近年になって、ドラヴァニアの高空を舞うアガトスの影が、猟師によって目撃されたって、話題になってるの。伝説に終止符を打つチャンスだとは思わない?
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
蒼の竜騎士聖バルロアイアンは城壁の上のテラスに歩み出ると上空を見上げた。
空には暗雲が立ち込め、その下を無数の飛竜が旋回している。その輪の中心にひときわ大きな竜の姿が見える。
「アガトスか…。」
そう呟くとバルロアイアンは兜のバイザーを下ろした。
黒翼の魔竜と呼ばれるアガトスは七大天竜ニーズヘッグが最初に生み出しし眷属のうちの一匹と伝承される。体長は騎馬10頭ほどもあり、地獄の闇から生まれし竜と伝えられるに至る黒い蛇のような艶やかな鱗の体躯、それに細くて長い手足が付いている。顔からは左右に首の長さと同じくらいか、それ以上に長い髭が生えていて、それを鞭のように振るう。翼は前足と同化していて一見飛竜の類の特徴を備えているが、その長い胴体の形状、飛竜に比べ大きな力を持ち圧倒的に長寿だという。飛竜種とは比較にならない敵だ。相手にとって不足はない。
バルロアイアンは槍の切っ先をアガトスに向け、高く掲げた。アガトスがこちらを睨んで発する殺気が肌を泡立たせた。
「雑魚はいらん!アガトス、お前が来い!」
バルロアイアンがそう叫ぶとアガトスはその長い体で空に大きな円を描き泳ぐように一周回ると頭を下に向け、真っすぐ一直線にバルロアイアン目掛けて急降下を始めた。
バルロアイアンはそれを確認すると小走りに助走をつけ、槍を握り直すとアガトス目掛けて高く飛び上がった。
バルロアイアンとアガトスの空中戦は数十分に及んだ。激しい攻防を繰り返すがどちらも相手に致命傷を与える事が出来ず、時間ばかりが過ぎていた。だが遂にアガトスの一瞬のスキをついてバルロアイアンの一撃がアガトスの喉元を割いた。激痛に体をくねらせながらアガトスはバルロアイアンを振りほどいた。跳ね飛ばされたバルロアイアンはアガトスの傷口から噴き出す鮮血と共に地面に降り立つ。鮮血は尚も雨のように降り注いだ。流石のアガトスもこの出血ではこれ以上戦えないと判断したのか、空中で踵を返すと、咆哮を上げながら飛び去ろうとした。
「逃がすかぁ!」
バルロアイアンは雄叫びを上げると追撃の為再び飛び上がろうと足を踏ん張ろうとしたが、足が言うことをきかなかった。
「‥‥‼」
バルロアイアンが自分の足を見ると左足の太ももから膝に掛けての肉が装甲ごとごっそり削がれていた。
溢れ出るアドレナリンのせいで全く痛みは感じなかったが、振りほどこうとアガトスが藻掻いた時に持っていかれたのだろうか、それとも喉を切り裂いた時に食いちぎられたのだろうか。
「くそっ‼」
バルロアイアンは動かなくなった左足の膝をついたまま力いっぱい槍を地面に立てると、空を見上げた。ふらつきながらも飛び去るアガトスの姿を見送る事しかできなかった。
バルロアイアンはその後、訓練を重ね右足だけでも以前と変わらない程動けるまでに回復したが、右足に掛かる異常なほどの負荷が原因で彼は引退することになる。結局のところ、この怪我が彼の蒼の竜騎士としての人生を短くしたことに変わりはなかった。
「つまるところ・・・・」
老齢の為飛べなくなった竜騎士の話を黙って聞いていたあたしがここへきて口を挟んだ。
「竜騎士はみんな仇であるアガトスをやっつけたいのね?」
あたしがそう言うと、老齢の飛べなくなった竜騎士はうんうんと頷いた。
「それが竜騎士たるものの悲願だ。竜騎士になったお前さんの姉も同じだろう」
あたしと相方が驚いて目を丸くしていると、飛べなくなった老齢の竜騎士は言った。
「話は何度もきかされているよ、翠髪のムーンキーパーなんてそうそういるもんじゃない」